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基礎講座 · 実務 第2章 生成AIを使いこなす

第8回 ハルシネーション
AIはなぜもっともらしい嘘をつくのか

約5分で読めます

この回でわかること

もっともらしい嘘

生成AIに質問すると、ときどき事実と違うことを、とても自信ありげに答えることがあります。実在しない論文のタイトル、存在しない法律の条文、ありもしない製品の機能。しかも文章は自然で、一見すると正しく見えます。この現象をハルシネーションと呼びます。「幻覚」という意味の英語です。

実際に、米国では2023年、弁護士がAIの作った架空の判例をそのまま裁判所への書面に引用し、問題になりました。AIを仕事に使うなら、避けて通れないテーマです。

なぜ起きるのか

理由は、LLM(学習して、人間のように文章を理解・生成できるAI。ChatGPTやGeminiの中身。">大規模言語モデル)が文章を作るしくみにあります。第5回で見たように、LLMは正しい答えをどこかで調べてから返しているわけではありません。それまでの文章に続く「次の言葉」として最ももっともらしいものを予測し、それを一語ずつつなげて文章を組み立てています。

「日本で一番高い山は」と聞かれれば、学習した大量の文章から「富士山」が圧倒的にもっともらしい続きだとわかります。ところが、ほとんど情報の無い小さな町の山について聞かれると、候補はばらけます。それでもLLMは文章を止めず、それらしい響きの名前を選んでしまうのです。

「日本で一番高い山は」の後には富士山が高い確率で選ばれるが、ほとんど情報の無い町の山を聞かれると、候補の確率がばらけて、もっともらしい架空の名前が選ばれてしまうことを示した図
図1 よく知っている話題と、知らない話題での「次の言葉」の選び方

つまりハルシネーションは、故障や手抜きではなく、文章を作るしくみそのものから生まれる性質です。

起きやすい場面

特に起きやすいのは、細かい数字や年号、人名や地名などの固有名詞、引用や出典のURL、ごく最近の出来事、そして話題そのものがマイナーな場合です。どれも「それらしい形」は簡単に作れる一方で、学習した文章の中に正しい答えが少ないものばかりです。

逆に、多くの人が繰り返し書いてきた一般的な知識ほど、間違いは起きにくくなります。

試験会場で、迷いながらも解答用紙の空欄をすべて埋めていく受験生のイラスト
図2 わからない問題でも空欄を埋めてしまう受験生

たとえるなら

答えがわからない問題でも、空欄にしておくのが嫌で、それらしい答えを書き込んでしまう受験生に似ています。本人に悪気はありません。ただ、採点する側が気づかなければ、間違いはそのまま正解のような顔をして残ってしまいます。

減らす工夫

いちばん効果が大きいのは、信頼できる資料を渡して、その内容に基づいて答えさせる方法です。社内文書などを検索して渡すRAGという技術で、第9回で詳しく扱います。

ほかにも、「わからない場合はわからないと答えて」とあらかじめ指示する、出典を出させて自分で確かめる、といった工夫があります。最近は答える前に時間をかけて考える推論モデル(第18回)も登場し、間違いは減ってきました。それでも、ゼロにはなっていません。

上手な付き合い方

大事なのは、AIの答えを「下書き」として扱うことです。アイデア出しや文章の整理では大きな力になりますが、数字・固有名詞・出典が出てきたら、元の資料で確かめる習慣をつけましょう。

このアプリが、すべての記事に発表元の原文へのリンクを付けているのも同じ理由です。AIが要約した内容でも、元の一次情報にすぐ戻れることが、いちばん確かな安全策になります。

やってみよう

実際にAIに「知らなさそうなこと」を聞いて、ハルシネーションを自分の目で見てみましょう。

  1. 「(あなたの住んでいる市区町村)の歴史を、出来事と年号つきで5つ教えてください。それぞれの出典も付けてください。」

    成功の目安: 年号や出典を市区町村の公式サイトなどで確かめてみて、1つでも食い違いや、確かめられない記述が見つかれば成功です。それがハルシネーションです。

  2. 同じ会話の続きで「確信が持てない点は『わからない』と答えてください」と付け加えて、もう一度聞いてみてください。

    成功の目安: 答え方が慎重になる、「確認できません」と書く項目が増えるなど、1回目と違いが出れば成功です。

うまくいかないとき: 5つとも正しかった場合は、AIがよく知っている話題だったということです。町内の神社や小さな公園など、もっと身近で情報の少ない話題で試してみてください。

確認クイズ

Q1. ハルシネーションとはどんな現象?

  1. AIが事実と異なる内容を、もっともらしく答えてしまうこと
  2. AIが質問を理解できず、何も答えなくなること
  3. AIの返事が極端に遅くなること
答えを見る正解は A。ハルシネーションは「幻覚」という意味の言葉で、事実ではない内容を自信ありげに答えてしまう現象を指します。

Q2. ハルシネーションが起きる主な理由として、本文で説明したのはどれ?

  1. 開発者がわざと間違いを混ぜるように作っているから
  2. インターネットの接続が途中で切れるから
  3. 文脈にもっともらしく続く言葉を予測して文章を作るしくみだから
答えを見る正解は C。LLMは正しい答えを調べて返しているのではなく、次にくる言葉を予測して文章を組み立てています。知らない話題でも、それらしい形の文章が作れてしまうのです。

Q3. ハルシネーションを減らす工夫として、本文で紹介したのはどれ?

  1. 質問をできるだけ短くする
  2. 信頼できる資料を渡して、その内容に基づいて答えさせる
  3. 同じ質問を何度も繰り返して、最後の答えを採用する
答えを見る正解は B。根拠となる資料を渡して答えさせる方法は、RAG(第9回)としてビジネスでも広く使われています。それでもゼロにはならないので、大事な情報は元の資料で確かめましょう。

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