第1回 AIとは何か
「ルールを書く」から「例から学ぶ」へ
- AIは「人間がルールを書く」方式から「例から学ぶ」方式へ変わってきた
- 機械学習・ディープラーニング・生成AIは入れ子の関係にある
- いまのAIが得意なことと、苦手なこと
「AI」はひとつの技術の名前ではない
AI(人工知能)は、特定の機械や製品の名前ではありません。見分ける、予測する、言葉を扱うといった、これまで人間が頭を使ってこなしてきた仕事をコンピューターにやらせようとする研究分野全体の呼び名です。スマートフォンの顔認証も、ネット通販のおすすめも、ChatGPTのような会話のAIも、すべてこの大きな傘の下にあります。
ニュースで「AIが〜した」と書かれているとき、中身はそれぞれまったく違う技術であることが珍しくありません。この講座では、その違いが見分けられるようになることを目指します。
昔のAI: 人間がルールを書く
初期のAIの主流は、専門家の知識を「もし〜なら、〜する」というルールの形でコンピューターに書き込む方式でした。たとえば迷惑メールを見分けるなら、「件名に『当選』とあれば迷惑メール」「知らない送り主から大量に届いたら迷惑メール」といったルールを、人間が一つずつ書いていきます。
この方式は、ルールがはっきりしている仕事では今でも役に立ちます。ただし大きな弱点がありました。世の中には例外が無数にあり、ルールを書ききれないのです。送り主が件名を「当 選」と書き換えただけで、ルールはすり抜けられてしまいます。
いまのAI: 例から学ぶ
そこで主流になったのが機械学習です。人間はルールを書く代わりに、「これは迷惑メール」「これは普通のメール」という例を大量に集めて、コンピューターに見せます。どんな特徴があれば迷惑メールらしいのか、その見分け方を見つけるのはコンピューターの側です。
例が十分にあれば、人間が思いつかなかった手がかりまで拾えるようになります。人間の仕事は「ルールを考えること」から「良い例を集めること」に変わりました。いまAIの開発でデータの量と質がこれほど重視されるのは、このためです。
機械学習・ディープラーニング・生成AIの関係
この3つの言葉は、入れ子の関係にあります。AIという大きな分野の中に機械学習があり、その機械学習の一種がディープラーニングです。ディープラーニングは、脳の神経細胞のつながりをまねた計算のしくみ(ニューラルネットワーク)を何層も重ねたもので、2010年代に画像認識の精度を大きく引き上げました。
そして、文章や画像を新しく作り出すAIを生成AIと呼びます。2022年に公開されたChatGPTで一気に広まり、いまの生成AIの多くはディープラーニングで作られています。ChatGPTの中身はLLM(大規模言語モデル)と呼ばれる、言葉を扱う生成AIです。詳しいしくみは第2回から順番に見ていきます。

たとえるなら
ルールを書くAIは、分厚いレシピ本を丸暗記した料理人です。書いてあるとおりに作るのは確実ですが、本に載っていない食材が出てきたとたんに手が止まります。
例から学ぶAIは、何千回も味見をして舌で覚えた料理人です。初めての食材でも、それらしい味付けができます。ただし「なぜ塩をこの量にしたのか」と聞かれても、うまく言葉で説明できません。この対比が、いまのAIの得意と苦手をよく表しています。
得意なことと、苦手なこと
いまのAIが得意なのは、大量のデータから共通するパターンを見つけること、言葉や画像を扱うこと、そして疲れずに同じ作業を続けることです。
一方で苦手なこともはっきりしています。学習した例とかけ離れた状況には弱く、なぜその答えにしたのかを筋道立てて説明するのも得意ではありません。もっともらしい間違いを答えることもあります(第8回で詳しく扱います)。また、学習した時点より後の出来事は、そのままでは知りません(第9回のRAGがその対策です)。
ニュースを読むコツ
「AIが医師より正確に病気を見つけた」といった見出しを見たら、どんな例(データ)で学んだAIなのか、どんな場面で試したのかに注目してみてください。例から学ぶAIの実力は、学んだ例の範囲で大きく変わります。それを意識するだけで、ニュースの見え方がぐっと立体的になります。
確認クイズ
Q1. いまのAIの主流である「機械学習」の考え方として正しいのはどれ?
- 質問のたびにインターネットを検索して答えを探す
- 専門家がすべての判断ルールを「もし〜なら」の形で書き込む
- 大量の例を見せて、見分け方をコンピューター自身に見つけさせる
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正解は C。機械学習では、人間はルールを書く代わりに「例」を集めます。見分け方を見つけるのはコンピューターの側です。Q2. 機械学習・ディープラーニング・生成AIの関係として正しいのはどれ?
- ディープラーニングの中に機械学習があり、生成AIはそのどちらとも別の技術
- 機械学習の中にディープラーニングがあり、いまの生成AIの多くはその上に作られている
- 3つは名前が違うだけで、まったく同じものを指す
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正解は B。AIという大きな分野の中に機械学習があり、その一種がディープラーニングです。ChatGPTのような生成AIの多くはディープラーニングで作られています。Q3. 本文で挙げた「いまのAIが苦手なこと」はどれ?
- 写真に写っているものを見分けること
- 大量のデータから共通するパターンを見つけること
- なぜその答えにしたのかを、筋道立てて説明すること
